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短文散文とかうっかり萌えた別ジャンルとか管理人の電波とかをひっそりこっそり。

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2025/04/29 (Tue) -

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猫を殺す言葉

2016/03/28 (Mon) - 未選択

春インテ無配





「もしさぁ、天人の技術とやらで俺のクローンが出来たとして。身体の傷とか記憶とか、勿論性格も全部まるっとコピーできてよ。そんで、俺の本体はもうおっ死んでて、でも誰もそのこと知らなくて、そいつ自身もてめぇがクローンだなんて気づいてなかったら。それって結局、『俺』は生きてることになるのかね?」
 それは、ふとしたはずみで零れ落ちた、ひどく他愛なくてつまらない、酔いに任せた与太話だった。
 ふわりと頬を撫でる風に、ようやく柔らかな春の土の匂いが混じり始めた三月の暮れ。久々に時間の取れた恋人と気持ちよく酒を煽った帰り道、桜の木々が等間隔に植えられた川沿いの土手を千鳥足で歩きながら、銀時はふっと頭に浮かんだ問いを隣の男へ寄越してみせた。
 本当に、別段何の含みがあったわけではない。ただ、話したいことはさっきまでの居酒屋で散々喋ってしまったので、今朝方結野アナの番組でやっていた、クローン技術だかドローン技術だかのニュースを記憶の底から引っ張り上げてみただけだ。
 勿論それは現実の話ではなく、近日公開されるという話題のSF映画の話だったが。
 言ってから、明日早朝から長期出張にでかける仕事中毒の恋人を屯所へ送る道すがらにしては何とも色気がない話かと思ったけれど、元よりムードだなんだを気にするような付き合い方はしていない。
 案の定、人目がないのをいいことに堂々と歩き煙草を燻らせていた男は、突拍子もない銀時の問いにああん?と訝しげな声を上げながらも、別段機嫌を損ねた素振りは見せなかった。
「なんだそりゃ。天パのくせに科学者気取りか?」 
「何それ。っつーか天パ関係なくね?」
「こないだ警護した天人のお偉いさんが、ヒマにあかせて御高説垂れてた話だ。箱の中の猫が生きてるか死んでるかは、蓋を開けてみねーと分からねーとかなんとか……なんつったっけな。シュ、シュ、シュレ……マジンガーZ?」
「シュレティンガーな。シュレティンガーの猫な。今いい感じに行ってたのになんで最終そこに辿り着いたの。お前の中でどういう科学反応起こったの。しかもそれクローンの話と全然関係ねーしやっぱり天パも関係ねーしもうツッコミ追いつかねーし、いてっ!」
「っせぇ綿毛!てめぇこそなんでそんな単語知ってやがる綿毛のくせに!!」
「銀さんこう見えても博識なんですぅー。ってだから痛い痛い痛い!」
 理不尽な怒りにあかせた男が、横からゲシゲシと脇腹を蹴りつけてくる。柔らかな草履とはいえ、剣客として鍛え上げられた足による容赦ない攻撃は、酔っ払いの加減のなさも相俟って、割と普通にとても痛い。
 そのまま二人でギャアギャア騒いでいるうち、うっかり土手の縁から足を滑らせ、揃って斜面へ転がり落ちた。
 といっても、草に覆われた柔らかな地面は傾斜も緩く、下まで転がることはない。諸共一緒に絡まり転げた男を抱きしめ、背中からドサリと倒れ込めば、頬に冷たく気持ちいい黒髪の感触が触れ、鼻先に慣れた煙草の匂いがふわりと漂った。
 酒が入っているせいだろうか。重なった身体が、いつもより少し暖かい。寒の戻りというほどではないが、夜桜花見にはまだ早いこの季節、知らず冷えていた指先が、その温もりでじんと痺れて心地良い。夕方まで降っていた雨のせいで、地面や草はまだ濡れていたけれど、それはこの温もりを手放す理由にはならなかった。
 見上げれば、視線の先には朧雲を纏った満月と、その月明かりを浴びた早咲きの桜が数輪綻んでいる。静けさを取り戻した頭の下からは、サラサラと流れる川の音。腕の中には、惚れた温もり。
 何とも平凡で幸せな一瞬に、知らずほう、と息を吐いた、とき。
「―――…ならねぇよ」
 ふいに腕の中の大きな黒い猫が身じろいだかと思うと、男は桜と月から銀時を取り戻すかのように顔を上げ、その胸元をぐいと掴んだ。
 黒い、黒い瞳が、どこまでもまっすぐ銀時を見下ろして。

「俺がてめぇを、わからねぇはずがねぇ」

 それが、すっかり忘れかけていた先刻の問いに対する答えだと、気付くのに数秒かかった。
 さあ、と柔らかな風が土手腹の草を撫で、男の髪をふわりと揺らす。サラサラと、川の流れる音が響いている。鼓膜に、頭に、細胞の一つ一つに、じわじわとその言葉の意味が沁みていく。鼓動が俄かに脈打って、冷えかけていたはずの末端に血が通っていくのが分かる。
 なんてタイミングで、なんてことを言いやがるのだ、この男は。
 好きだの愛してるだのそんな台詞、絶対口にしたりしないくせに。どれだけ頼み込もうが自慢の息子で滅多打ちのメロメロに溶かそうが、言ってくれなかったくせに。
 どうしてこんなタイミングで。明日の朝には、いなくなっているにくせに。次いつ会えるかなんて、分からないのに。もしかしたらこれが、この夜が。
「……お前、さぁ」
 自分と変わらない成人男性に容赦なく乗っかられているせいで、圧迫された腹から数時間前に詰め込んだ酸っぱい犬のエサが喉元まで込み上げてきて、おえっとえづいた。
 ああ全く、一時のテンションに身を任せるもんじゃない。自分はいつになったら学習するのだろう。長谷川のことを笑えない。
 ああ全く、この度し難く綺麗な生き物は、どうしていつも、いつもいつも、いとも容易く正解を導いてしまうのだろう。欲しいものを、くれるのだろう。
 何も知らないはずなのに、全てを知っているような目で、こんなに真っ直ぐ、自分の魂を見つめてくれるのだろう。
 ああそうだ。命は一つ。首が落ちればそこでおしまい。死んだ人間は帰ってこない。決して。決して。どれだけ同じ、姿形をしていても。
 そんなどうしようもなく当たり前のことを、どうしようもなく当たり前に言ってのける男だから。だから自分は、どうしようもなく。
「―――…それ、反則」
 
 やっぱ朝までコースでお願いします、と泣き笑いのような顔で再び男を抱きしめれば、温もりの戻ってきた耳元で、ハナからそのつもりだクソ天パ、と勝ち誇ったように呟かれた。  

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