MEMOMEMO短文散文とかうっかり萌えた別ジャンルとか管理人の電波とかをひっそりこっそり。 [PR]× [PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。 突発見廻組SS本誌11号を読んでうっかり滾って書いてみたサブちゃん&ノブたすSS。 ネタバレ要素は含みません。 その出会いは、至って平凡かつありふれたものだった。 「そこのお嬢さん、こんな夜更けに何をなさっているのです?」 危ないですよ、と。頭上からふいにかけられた声に、数秒の沈黙の後、信女はゆっくりと振り向いた。すれば、ススキが覆い茂る土手の上から、此方を見下ろす男の姿が視界に映る。 ターミナルの明かりも届かない、時が止まったような黒い川縁。そこにいるのは自分だけで、だからその声も自分に向けられたものだと頭では理解できたが、その意味が分からない。 年の頃はやや中年、だろうか。いや、声からしてまだ若いのかもしれないが、どちらにしろ老け顔だから中年でいい。白い洋装に片眼鏡、腰に刀を差した男。左手に何か小さな箱のようなものを持っている。 一見ひょろりとしているが、自分に気配を感じさせなかったことといい隙のない佇まいといい、それなりに腕は立つのだろう。 すぐ殺そうかと思ったけれど、男が余りにも平然としているので、とりあえず事実を述べてみることにした。 「……月、見てたの。今夜は、満月だから」 「お若いのに風流を解す心をお持ちとは素晴らしいことです。しかし、こんな自分に女性の一人歩きは関心しませんね。特にこの近辺はまだ開発も進んでおらず、不逞浪士や無宿者もたむろしています。家までお送り致しましょう。あ、私怪しいものではありませんよ。見廻組局長、佐々木異三郎と申します。サブちゃんって呼んで下さいね。ちなみにメアドは」 「いらない。まだ、帰りたくない」 長々とした男の口上を遮り、信女は短く区切っていらえを返した。 見廻組局長、という単語が何となく引っ掛かったが、それよりもまだ戻りたくないということの方が重要だった。 帰っても、別段会いたい人間はいないし、やりたいこともない。だったらもう少し、月を眺めていたかった。 そんな信女の返答をどう思ったのか、男は困りましたねぇ、と、全く困っていなさそうに呟いた。 「若者が一度は通る思春期の懊悩か、ご家庭に何か問題があるのかは計りかねますが、しかし私はこれでもエリート。女性をこのような場に一人残して立ち去るのはエリートの流儀に反し」 「大丈夫。月が沈む前に、ちゃんと帰る」 「……あの、さっきから私の台詞をさらりと流すのやめて頂けませんかね。エリートと言えど、多少傷つくのですが」 ぶつぶつと、一人言のように嘯いた男が、何を思ったかやおらガサガサとススキを掻き分け土手を下りてくる。 丁度いい、そろそろ殺そう。 そう思い握り直した刀の切っ先が、男の持っているものに気づいた瞬間、ふと止まった。 「……ドーナツ」 近づいたことによって、月明かりにくっきりと照らされた箱のパッケージ。 そこに描かれていたのは、とある星から入ってきた江戸で人気の菓子の絵だった。 そしてそれは、信女の数少ない『好物』でもある。無論、今まで誰にも言ったことはないが。 信女の呟きが聞こえたのだろう。男はああ、と思い出したように右手に提げた箱を掲げてみせた。 「もしかして、貴女もお好きですか、コレ。いや気が合いますね。恥ずかしながら私もこの菓子には目がないものでして。あ、ちなみにこれは本日発売の期間限定新商品です。エリートらしく家に戻ってゆっくり頂こうと思っていたのですが」 美しいお嬢さんと月を愛でながら食すのもまた一興ですかね、と思い立ったように告げながら、男が川縁の空いている場所に腰を下ろし、ガサガサと箱を開ける。そうして、中から白い油紙に包んだ丸い菓子を一つ取り出し、信女へと差し出した。 拍子に、腰に差した刀の鍔がガチャリと鳴って、記憶の鍵が嵌ったようにふと思い出す。 真白い洋装に身を包んだ『見廻組』と言えば、確か。 「どうぞ、遠慮はいりませんよ。何しろ私はエリートかつジェントルマンですから。女性にお裾分けするのは当然のことです」 「……どうも」 今すぐ、この男のそっ首を切り落とすのは簡単だった。けれどそうしたら、折角の菓子が生暖かくて鉄臭い血飛沫に塗れて台無しになってしまう。それは嫌だったので、信女はもう少しだけ、男を生かすことにした。 刀を握る手とは逆の手で、真ん中がぽっかり空いたそれを受け取り、とりあえず男の左隣にしゃがんで一口齧りつく。 ココアを練り込んでいるらしい黒い生地に、アーモンドを刻んだホワイトチョコがコーティングされている。 途端口中に広がるのは、香ばしく焼けた小麦粉と砂糖、そして中から溢れ出した濃厚なマロンクリームの甘みだけで、毒が仕込まれている様子はない。 無論、幼少から訓練を受けてきた自分にとって、大抵の毒物など効きはしないが、しかし純粋に疑問に思ったので、二口目を齧りつく前に、ふと聞いてみた。 後から思えば、『疑問に思う』こと自体、とてもらしくないことだったのだけれど。 「……貴方、警察」 「おや、存じて下さっていたとは光栄です。見廻組は選りすぐりのエリートで構成されたエリートのエリートによるエリートの為の治安維持部隊なのですが、何分まだ設立されて日が浅く、エリートの割に知名度がいまいち」 「ならどうして、人殺しを捕まえないの?」 ひゅう、と柔らかな風が吹いて、周囲に漂う噎せ返るような鉄錆の臭いが一層きつく鼻につく。 腰ほどまでの長さのススキが一面に覆い茂った川縁は、しかし不自然な程に静かで、虫の音一つ聞こえない。さっきまで斬り合いをしていて、まだそこここに温かい出来立ての死体が転がっているから、虫も息を潜めているのだろう。 信女は、暗殺に必要なこと以外の知識に乏しく、また興味もなかったが、『見廻組』が『警察』で、『警察』が『人殺しや悪人を捕まえる物』だということは、この短い間でどうにか思い出していた。 だが、その割には見廻組局長を名乗る隣の男は、信女が斬り殺した死体のすぐ横で、もそもそとドーナツを頬張っている。座るとき、ちゃんと死体を避けていたから、見えていないわけでは勿論ないはずだ。 自分が言うのも何だが、これは少し、おかしな光景ではないだろうか。 目撃者は消す。それは服のボタンを留めるのと同じぐらい当たり前のことで、信女にとっては習慣行為だ。現に今まで、運悪く現場を見られたときは、それが女だろうと子供だろうと悲鳴を上げられる前に何も感じず口を封じてきた。 なのに、この男はまるで何も見ていないかのように眉根一つ動かさないから、その習慣が発揮できない。状況的には殺すべきだとわかっているのに、殺していいのか少し悩んで、答えを先伸ばすようにもう一口ドーナツを頬張った。 綺麗な円の一角が崩れ、視力検査の図形に似た形に変わる。そういえばこないだ、視力の落ちた仲間が一人、不良品として処分されたことを思い出す。 「それは、少し語弊がありますね」 信女の心中など知る由もない男が、ゆっくりといらえを返す。さわさわと流れる黒い水面に映る、揺れる月を眺めながら。 「我々の任務は、幕府に仇為す不逞浪士……即ち、社会というシステムに齟齬を及ぼしかけない不良品の歯車を取り除くことであって、大義ある殺人者を捕らえることではありません」 第一、それではまず我々自身が捕まってしまいますからね、と、あっけらかんと男が告げる。 男の言葉は、いちいち長くて難しく、信女には半分も理解できなかったが、最後の一言だけは濡れた氷のようにスルリと喉を通って落ちた。 なるほど確かに、それはそうだ。 現に自分が今まで標的として殺してきた『幕府の重臣』は、みな腰に刀を差した人殺しだった。 少し考えれば分かることだったけれど、少しも考えたことがなかったし、教えてくれる人間もいなかったので、本当に今気がついた。 「お見受けしたところ、貴女は我々と同じ『大義ある殺人者』のようだ。であるならば、私が刀を抜く必要はない。そう思ったのですが」 違いますか?と男が問う。片眼鏡越しの茫洋とした視線を、水面から信女に移して。 「……何故、私に聞くの」 自分は、命令されて人を殺める暗殺者で、今まで誰かに何かを問われたことなどない。信女自身、それが当然だと思っていた。 なのにこの男は、血の滴る刀を提げたまま死体の中に立っていた信女に、まるで町娘にするように声をかけ、ドーナツを一緒に食べて、話している。信女にはそれは理解できない。 「互いの意見を交換し、相互理解を深め合うのはエリートとして重要なことです。上から押し付けるだけの人間も、それを諾々と聞くだけの人間も、総じて無能者ですから。私は是非、『貴女』と話がしたいのですよ。ゆっくりとドーナツでも食べながら」 何しろウチには甘い物を好む隊士がいませんで、とやや不平そうに呟いた男が、また一口菓子を齧る。それを見て、信女も思い出したようにドーナツを頬張った。サクリとした感触とクリームが口中で混じり合い溶けていく。 そういうものだろうか。 男の言葉は、やはり小難しくてよく分からない。 ただ、とりあえずこの男が自分を捕らえる気はないこと、自分がこの男を斬り殺す必要はなさそうだということ、そして。 「というわけで、改めてお名前とメアド教えて頂けませ」 「いや」 誰かと食べるドーナツが、何故か普段より美味しく感じる気がすることだけは、理解できた。 -------------------------------- ただのナンパ。 PR COMMENTS二度目まして!ん?三度目…?このお話とっっても好きです。のぶちゃんと異三郎が話をする、そのひとつのことで一気にのぶちゃん自身や異三郎の感じや周りの風景まで浮かんで、すごく深いです。大好きです**
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