MEMOMEMO短文散文とかうっかり萌えた別ジャンルとか管理人の電波とかをひっそりこっそり。 [PR]× [PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。 ボタンを押したらさようなら原稿煮詰ったので自分だけが楽しい息抜き。
消灯ー、と、遠く母屋で告げて回る当直隊士の声に、土方ははたと手を止め顔を上げた。 片付けても片付けても終わらない書類仕事に没頭する内、いつの間にか時間を忘れていたらしい。 真選組の消灯時刻は二十三時。夕方五時の終礼会議の後、ひたすら自室に篭もっていたから、かれこれ六時間書類と格闘していたことになる。そういえば、夕飯を取った記憶もない。 「チッ……」 人や物が大きく入れ替わる年度末、官民問わず忙しいのはどこも同じ。特に役所というところは、利益が絡まない分形骸化した無駄な業務が非常に多い。そこへきて、真選組は更に武装警察としての恒常業務も変わりなくこなさなければならないのだから、その多忙さたるや推して知るべしだ。 最も、こうして書類に追われているのは主に副長である土方一人で、局長である近藤や他の隊長格、平隊士達は、消灯時間を過ぎてまで『残業』をすることはない。というか、土方の記憶が確かなら、近藤は今夜もすまいるに行くと言っていたし、総悟は新しい呪いの研究、山崎はこれみよがしに副長室の前の中庭でミントンに勤しんでいたのを殴り飛ばした、ような気がする。うっすらと。 よくよく考えれば不公平そのもので、若干腹立たしくはあるが、彼らにデスクワークは期待していないので仕方ない。下手に手伝わせれば返って自分の仕事が何倍にも膨れ上がるのは過去経験済みだし、組のために身を粉にして働くのは、仕事人間の土方にとって別段苦なことではない。ただ。 「……今日で、何日だかな」 ふつりと切れた集中の合間に滑り込んできた銀色を思い浮かべ、ぽつりと零れた声が静まりかえった室内に嫌に大きく響いて消えた。 半ば硬直しかけた指からどうにか万年筆を転がし、畳の上に置いていた携帯を拾い上げる。そうして、慣れた動作で着信履歴を辿っていくのにも、そこに組関係者以外の名前は、登録していない番号は、残っていなかった。 当たり前だ。この携帯が保存できる履歴は二十件。最も古い日付のものでも、せいぜい七日前がいいところで、対してあの男とは、自分の記憶が確かなら、もう二週間以上顔も見ていなければ声も聞いていない。 まぁ最も、あの男にしてみれば、ヤれないのなら自分になど何の用も興味もないのだろうし、なんとも思っていないのだろうけれど。 ふと沸き起こる虚無感に、胸が潰され小さな軋みを上げるのを、土方は奥歯を噛み締めやり過ごした。 仕方ない。これは、自分の選んだことだから。身体だけの関係だと、性欲処理の相手だと、そう先に突きつけたのは、大事なものを二つも持てない、卑怯で弱い自分なのだから。 だから、ふとあの声が聞きたいと思っても、『無意味に』電話をかけるなんて、自分には許されない。連絡を取るのは、互いに性欲処理の約束を取り付けるときだけと、暗黙の了解で決まっている。まだ当分、そんな時間が取れそうにない自分に、諳んじている番号を辿る権利などありはしない。 わかっている、けれど。 「……会いてぇ、なぁ」 らしくもなく背を丸め、携帯の操作画面を親指でつう、となぞる。 机の上の書類は、山というよりビルの様相で未だ絢爛に聳え立っていて、一向に終わりが見えそうにない。ここ二週間の平均睡眠時間は、おそらく三時間を切っている。ナポレオンか俺は。いや違う、あいつは四時間で俺は三時間だ。俺はナポレオンを超えた男、土方十四郎だ。だから何だ。 一度疲労を自覚してしまったせいだろうか、塞き止めていた疲労が一気に雪崩れ込んでくる。壊れかけた頭の中で、馬に跨るナポレオンの巻き毛が、何故だかくるくるの天パに変貌していた。 会いたい、と思う。歴史に残る大英雄ではなく、うだつの上がらないマダオでニートで胡散臭いあの男に。 会って、奪い合うようなセックスをするのではなく、ただ緩やかに抱き締めて欲しい。それが叶わないなら、せめて電話で取りとめもない話をして、くだらないことで笑い合って、お疲れさんとほんの一言寄越して欲しい。 乾いた砂が水を求めるように、親指が自然とボタンを押し始める。市外局番から始まる、今時逆に珍しい固定電話。あの男へと繋がる扉の、十桁の解除キーが、液晶画面に羅列する。あとは発信ボタンを押せば、いとも容易く扉は開く。 けれど、土方の指は、そこで金縛りにでも遭ったかのように硬直し、ピクリとも動かなくなった。そんな己の体たらくに、諦念とも安堵ともつかない嘆息が漏れる。 ああ、分かっている。結局自分に、最後のボタンを押せないことぐらい。そんな勇気などないことぐらい。 今あの男の声を聞いたら、きっとこの身勝手な感情が伝ってしまう。知られてしまう。ボタンを押せば、きっと全てが終わってしまう。あの銀色が、自分の元から去ってしまう。 一定時間を過ぎた画面から、光が消える。打ち込んだ番号が、黒に沈む。 ああ、それでいい。それでいい。 それでいいんだと小さく笑って、土方は何も見えなくなった画面を、愛おしそうに指でなぞった。 ---------------------------- YOUスマートホンにしちゃいなYO!という話。 PR COMMENTSはじめましてずっとお話し自体は読ませていただいていたのですがはじめてコメントします(^-^)
ボタンを押したらさようならの続きがすごく気になります もし書く機会があればぜひこのあとの二人のやり取りをお願いします いきなりのコメント失礼しました あすかさまはじめましてさかなと申します!コメント有難うございますっ。
今のところ続きは全然考えてないのですが、もし何か浮かんだらそのときは挑戦してみたいと思います! ほんとぶった切りSSで申し訳ないです……! 無題はじめまして。私も始めてコメントさせていただきます。松柳さまの書かれる土方さんの不憫っぷりが大好きです。
こんないいところで止めるなんて…なんてドS!出来たら続きをお願いいたします。 たまこさまはじめまして、さかなと申します!コメント有難うございます!
拙宅の不憫な土方が大好きと仰って頂けて光栄です! これに関しては続きとかは全然浮かんでないんですが、もし何かふわっと降りてきたらそのときはまたこちらに落したいと思いますすみません! あと自分はどっちかというとMです! 無題健気というか、なんというか。土方に萌え禿げました!いいところで終わってるけどだからぐぐっと切なく愛らしいです。めちゃくちゃ気になりますがね!(笑)
椋さま何度もコメント有難うございます!
健気というかただの乙男な土方ですが萌えて頂けて嬉しいです!あのあとはその、どうせ行きつく先はバカップルですので、読んで下さった方で妄想して頂けたら嬉しいなと……! あっあとノブサブSSにもコメント有難うございます!まさかあれを好きと仰って頂ける方がおられるとは思わなかったのですごく嬉しかったです……わああ有難うございます……! もう最近ほんとうノブたすとサブちゃんのコンビが可愛すぎて可愛すぎてしゃーないです……。 さかなさんへメールにしようかなと思ったのですが短いのでもう一度ここに。
のぶちゃんとサブちゃんの何回も読んでしまって大変です。素敵です。必ずドーナッツ食べたくなる(笑) ああそれで一番言いたいのは、私ずっと前からさかなさんのファンでした。隠れてましたずっと。お話はほとんど2周はしてます(笑)携帯サイトの頃は外でも読み込んでました。打ち上げ花火が終わるまで。寝物語でした。グラサンかっこよすぎますよアレ!!(笑)CATPLAYシリーズも好きですあとさかなさんの書く幕土がつらくてつらくて。かっこよくて優しすぎる銀ちゃんも大好きです。要するに大好きでずっとずっと応援したいです。 ていうかします。 急にこんなにも好きだってことを言いたくて!殴り書いてしまいました^^ ずっとずっと見守ってます! COMMENT FORM |
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