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短文散文とかうっかり萌えた別ジャンルとか管理人の電波とかをひっそりこっそり。

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2025/04/30 (Wed) -

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さよならなんかは言わせない

2010/02/10 (Wed) - 未選択

【銀魂】

原作+5、6年後設定の銀土で土方死にネタ。
書きたいシーンのみ抜粋のぶった斬りSS。





 さわさわと、心地よい風が頬を撫で、舞い落ちる薄紅の花弁をふわりと浚い過ぎてゆく。
 その穏やかな風景を見るともなしに見やりつつ、銀時はわずかにすう、と目を眇めた。
 城に程近い町の中心部に位置する公園は、この季節になれば毎年見事な桜に埋め尽くされ、絶好の花見場所へと変貌する。現に今も柵向こうの芝生の上では、平日の真昼間にも関わらず茣蓙を敷き、重箱と酒瓶を広げて騒ぐ酔漢や家族連れで賑わっていた。
 そういえば、去年は自分達もあの中に混じって馬鹿騒ぎをしたのだったかと思い出しつつ、しかし銀時はその柵を越えることなく公園の隅に誂えられたベンチへ向かう。
 その両手にそれぞれ握られているのは、コーンに乗った二つの丸いアイスクリーム。
 お待たせ多串くん、といつものように揶揄を込め、左手のそれを差し出せば、制服姿のままベンチに茫洋と腰掛けていた土方が、ああ?と険の篭った視線を向けた。
「俺ぁいらねぇっつっただろうが」
「大丈夫だよ。これそんな甘くねぇし」
「……一応、聞くだけ聞いといてやる。何味だ」
「んー、醤油?」
 新発売だって、と小首を傾げいけしゃあしゃあとのたあえば、予想通り土方は額に盛大な青筋浮かべ、死ね天パと毒づいた。
 全くもって可愛げがないというか意地っ張りなことこの上ない。死にそうなのは自分のくせに。
「ま、いいから食えよ。銀さんの奢りだぜ?」
「っは、明日は槍の雨だな」
 掠れた声で憎まれ口を叩きながらも、ゆっくりと持ち上げられた右手にアイスを渡し、男の隣へ腰を下ろす。そうやって、リストラされたマダオ宜しくさわさわ揺れる薄紅色の舞う風景をぼんやり眺めている様からは、とてもこの男はつい先刻、伏魔殿と渾名される幕府の中枢で立ち回り、一つの法案を通してきたなどとは信じられないに違いない。
 時の流れと共に、攘夷志士を標榜する者が極端に減り、その意義を危ぶまれた武装警察を、治安維持の観点から更に広域のテロ・犯罪全般に対応する間口の広い組織へと地位を押し上げ確立する改正案。
 何もないところから仲間と共に刀一本で真選組を創り、育て、守ってきた男の集大成とも言える数年来の大仕事が、たった今終わったのだ。
 お疲れさん、とアイスクリンと呼ばれる昔ながらの安いバニラアイスを齧りながら軽い口調で呟けば、途端隣から、は、と鼻で笑う声が聞こえてくる。ああ本当に、可愛くない。
「何言ってやがる。これでようやくスタートラインに立っただけだ。これからまだまだ、やることなんざ山ほどあらぁ」
 海千山千の幕臣達と遣り合って、松平に頼らず予算をもぎ取り、今まで以上に部下を育てあの男を上へと押し上げて。
 いやそれよりもまずはとにかくさっさと帰って、文字通り山積みになっているだろう部屋の書類を片付けなければと語る男の声音は、浅息混じりだというのにどこまでも本気の響きを持っていた。
 これが最後の仕事だなんて、微塵も思っていない声。きっとその視線は、近藤達と駆け続ける未来だけを真っ直ぐ見据えているのだろう。
 誰が何と言おうとも、城の御殿医にすら手の施しようがない末期の病と匙を投げられようとも、こいつ自身が終わりにする気がないのなら、銀時にそれを止める権利はない。止めようとも思わない。
 けれど。
「……仕事仕事もいいけどさぁ。ちったぁ恋人も構ってくんなきゃ、いい加減銀さん拗ねちゃうよ?」
「っは、てめぇがそんな殊勝なタマかよ。……だがまぁ、そうだな。一番厄介だった案件にどうにか片がついたんだ。もう暫くすりゃ、ちったぁ落ち着く。そしたら、酒でも持って、夜桜見物と洒落込むか」
「へいへい、期待しねぇで待ってるよ。精々桜が散らねぇ間に一つ頼むぜ、副長さん」
 どこかでどっと、酔漢達の陽気な笑いが巻き起こる。
 公園のそこここに建てられた屋台から、暖かい風に乗って鼻腔を擽る焼きソバやたこ焼きのソースの匂いに、自然くう、と腹が鳴る。
 病に蝕まれる前は、それらにアホほどマヨネーズをかけて食べるのが好きだった男の身体は、この一年で目に見えて肉が削げていた。
 それでも、より体力を奪う延命治療を頑なに拒み、感覚が鈍るからと痛み止めのモルヒネさえほとんど使おうとせず、精神力で耐え切ってきたからだろう。一分の隙もない隊服に身を包み刀を差して颯爽と街を歩く足取りと鋭い眼光だけは、以前と何一つ変わらない、どこまでも自分の愛した男のままだった。
「……そろそろ、戻らねぇとな」
 待ち伏せしていた銀時に半ば強引に手を引かれ、城からそのままここへ来てしまったから、屯所で待っている近藤達のことが気がかりらしい。吐息に混じらせ呟いたその科白に、銀時はまた小さく笑った。
 いつまで経ってもゴリラゴリラ。そんなところも、本当何も変わらない。全くもって可愛くない。
「一応電話で連絡したんだろ?だったらまだいいじゃねぇか。今日ぐれぇゆっくりしたって誰も文句言わねぇよ」
「…てめぇはあの書類の山を見てねぇから、そんな暢気なことが言えるんだ。油断してたら東北の豪雪並に紙が積もって、あっという間に大雪崩だぞ。信じられるか?」
 さわり、とまた風が吹く。視界の端で黒い髪がふわりと揺れたかと思うと、やおらことりと右肩に僅かな重みが乗せられた。
 その部分から、次第にじわりとした温もりが布越しに伝わってくる。それは土方にとっても同様だったのか、肩口にすり、と額を押し付け、安堵したような深い吐息をほう、と漏らした。
「ったくあいつら、いつまで経ってもデクスワーク全部人に押し付けやがって」
「おめーが甘やかすからだろうがよ。一回ストでもやってみりゃいい。ちったぁ懲りて反省でもすんじゃねぇ?」
「懲りる前に真選組が壊滅する。そんで結局、全部俺に返ってくる」
 もう体験済みだと忌々しげに吐き捨てた科白に、銀時はご愁傷様と笑いながらまたアイスを頬張った。
 既に乗せられていた氷菓子の部分はほとんど食べ切っていたので、コーンの縁をさくりと齧る。
「ま、頼りにされてて結構じゃねーの。頑張れフォロ方くん」
「冗談じゃねぇぜ。近藤さんは相変わらずストーカーだし、総悟はドエスの破壊心だし……山崎は地味だし、原田はハゲだし、よぉ……」
「まだまだゆっくりできねぇなぁ、お母さん」
 さくり、とまたコーンの縁を齧りながら揶揄えば、土方は銀時の着物に頬を擦り寄せるようにして、小さく笑ったようだった。
「……たりめー、だ。あいつら、俺がいねぇと、何しでかすかわかんね…から……」
 もう、帰らねぇと、と。
 長い、長い吐息に乗せて呟いた言葉が、麗らかな春風に浚われ溶けてゆく。
 右肩に乗った重みがいよいよ増して、ぽとりと小さな音を立て、その足元に男の手から滑り落ちた手付かずのアイスクリームが半ば溶けかけ地面へと転がった。
「おーい、多串くん?」
 酷ぇなぁ、折角奢ってやったのに。実は結構美味いと評判だったのに。そう口を尖らせるのにも、傍らの男からいらえはない。さわさわという優しい風にふわりと舞った桜がひとひら、半ばまでなくなった自分のコーンの中へと落ちてくる。
 ああ本当に、いい天気だ。朝のニュースで結野アナが言っていた通り、まさに絶好のデート日和。現にこうしている間にも、目の前を何組もの幸せそうなカップルが腕を組んで通り過ぎてゆく。
だと言うのに、我が恋人のなんとつれないことだろう。
「―――…アイス一つ食べる暇もねぇなんて、相変わらず忙しねぇなぁ十四郎」
 そんなに早くいかなくたっていいだろうにと苦笑しながら、桜の花びらが混じったアイスの残りを全て頬張り、さわさわと頭上で揺れる薄紅の音に酔いしれるように瞳を閉じる。
右肩はまだ、暖かい。こんなにも、こんなにも。なのにお前は、もういない。

 さよならも言わせてくれないなんて酷い奴だと詰ろうとして、けれど結局それもいつものことだと思い出す。
 このゴリラ中毒の仕事馬鹿は、デート中だろうが何だろうが、電話一つで自分を蹴倒し、悪ィまたなと少しも悪びれない科白を残して上着を羽織り駆け出した。よく考えれば、別れの言葉なんて互いに一度も言ったことなどありはしない。
 そんなろくでもない恋人が、けれど自分はとてもとても好きだったから。いつだって、真っ直ぐ前だけを見詰めて走り続ける綺麗な背中を苦笑混じりに見送るのが好きだったから。だからきっと、これでいいのだろう。

 ゆっくりと瞳を開けて、しな垂れかかる男の懐へ勝手に手を入れ、内ポケットに入れられた携帯電話を探り出す。そうして、着信履歴の最初にある番号を呼び出しボタンを押せば、数コールと経たない内に聞きなれた男の声と繋がった。
 携帯を耳に当て、銀時がよぉ、と第一声を発しても、何故お前がと問い質されなかった辺り、もしかしたらこの男も何かを感じていたのかもしれない。
「悪ィなゴリ。多串くんがうっかり眠り込んじまってよぉ。……ああそうそう、去年花見やった、城の近くのでかい公園。…そう言うなって、何週間会ってなかったと思ってんの。ま、これもう起きそうにねーからよ、悪ィけど誰か迎えに……ああ、ああ大丈夫だ。ガキみてぇに暢気な面して、幸せそうに寝てやがるよ」

 肩口に乗せられた癖のない綺麗な黒髪にそっと頬を寄せて紡いだ穏やかなその声は、さわさわ揺れる麗らかな風に乗り。薄紅色の花弁と共に、澄み切った青い空へと舞い上がり、どこかへと溶けていった。



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さよならだけが人生だなんて、言わないよ。


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COMMENTS

はじめまして隠れファンです

こんな夜中に、涙が止まりません。こんなに泣いたのはいつぶりだろうか。(笑)

素敵なお話を、

本当にありがとうございます、
by 椋 | 2012.02.21 (Tue) 03:24 | EDIT | RES
椋さま
はじめましてさかなと申します。
わあああ有難うございます!
うっかりぶったぎり死ネタですが、そんな風に仰って頂けて本当に幸せです有難うございます……!
From 魚類。 | 2012.03.17 Sat 01:37

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