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MEMOMEMO

短文散文とかうっかり萌えた別ジャンルとか管理人の電波とかをひっそりこっそり。

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2025/05/24 (Sat) -

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キリジャSS

2013/06/08 (Sat) - 未選択

ブラックジャックのキリコ×BJです。
ブラックジャックのキリコ×BJです(大切なことなので二度書きました)




「この人殺し!」
 悲鳴のように劈く怒声が病室中へ響き渡り、ついでベッドボードに飾られていた花瓶が容赦なく自身の側頭部へ叩きつけられるのを、ブラックシャックはその場に直立したまま甘んじて享受した。
 さほど丈夫でもない花瓶が、頭に当たった瞬間ガチャンと砕け、こめかみに鋭い痛みが疾走る。花や水が頭から盛大にぶちまけられ、頬を伝ってリノリウムの床にぽたぽた落ちる。
 白い床を汚す水が赤く染まっていることで、一拍送れてこめかみを切ったらしいと思い至るが、ブラックジャックはその傷口を押ざえるでもなく、目の前の光景をただ眺めた。
 消毒薬と血の臭いが入り混じった病院の個室。全身をわなわなと震わせ、やつれた頬に滂沱の涙を滴らせて自分を睨む、憎しみに染まった若い女性。女性の鬼気迫る剣幕に怯え、後ずさる数人の看護士と、その中心に鎮座する白いベッド、人工呼吸器、依頼人だった自分の患者。
 ほんの数分前まで確かにこの手の中で息衝いていた命は、今はもう指の間をすり抜け、ブラックジャックの手の届かないところへ行ってしまった。
「……助ける、って、言ったくせに。手術は成功したって、もうじき、母さん目が覚めるって言ったくせに!何が医者よ、何が名医よ!アンタなんて、ただ母さんの身体を切り刻んだだけの人殺しじゃない!」
 まだ二十歳に満たない依頼人の娘が、若いが故の純粋さと激しさで真正面から糾弾するのを、ブラックジャックはただ無言で受け止めた。この少女が、自分以外に振り上げた拳を下ろす場所がないのを知っていた。
 結論から言えば、手術は完璧に成功だった。百万が一に一つにも、医療事故などではありえない。
 ただ、元々そこまで身体の強くなかった患者には、容態が安定する術後の一晩を超えられるだけの体力がほんの僅か足りなかった。
 それはやむを得ないことで、患者にもその家族にも事前にリスクは説明してあった。だから、この手術とその結果を罪に問われることはない。医者は神ではないのだから、それは「仕方のない」ことなのだ。
 だが、BJは少女に罵倒されるまま、小さく頭を下げた。
「……すまない。私は君のお母さんを救えなかった。手術に耐えられると判断して執刀した私の判断が甘かった」
 私の責任だ、と。頭を下げたまま、ブラックジャックは感情の読めない口調で短く告げた。こめかみから滴る血が、ぽたぽたと床を汚すのに、ああしまったなとぼんやり考えた。
 こめかみは、皮膚のすぐ下に太い血管が通っているから、些細な傷でもそこそこ派手に出血してしまう。花瓶がぶつかった衝撃と今の痛みの感覚からして、実際にはちょっとした打ち身と切り傷程度だと思うのだが、そんなことが目の前の少女に分かるはずがない。
 現に少女はわなわな震えていたものの、それ以上ブラックジャックに掴みかかったり、何かをぶつけようとはせず、結局わっと母親の遺体にしがみつき、号泣した。優しい子だと、素直に想う。
 患者を救えなかった自分に、今更何をか願う資格などないのは分かっているけれど。
 それでもどうか、この母親思いの優しい少女が、万に一つも後から自分の傷のことなどを思い出して、気に病んだりしないようにと願い、ブラックジャックは踵を返し立ち去った。



 死亡診断書や諸々の手続きを終わらせたときには、既に時刻は深夜にさしかかっていた。
 総合病院とはいえ、裏口に続く旧病棟は外来のみで、診療時間を過ぎれば看護師すらほとんど立ち入らない。
 弱い夜間照明が周囲を薄暗く照らす中、ともすれば薄闇に紛れそうになる黒コートを翻し、静まり返った廊下に革靴の音を響かせながら歩いていたブラックジャックは、角を曲がった瞬間ふいに視界を掠めた銀色に、ギクリと心の臓を跳ねさせ足を止めた。
 なぜならそこにいたのは、今自分がこの世で一番会いたくなかった人物で。
「おや、奇遇だなブラックジャック先生」
 廊下に置かれた古い長椅子に腰掛けた男が、ブラックジャックの姿を認め、ゆっくりと立ち上がる。さらりと揺れる肩まで伸びた銀糸の髪が、ほの暗い常夜灯の明かりを受けて酷く場違いに輝いた。
 そのまま葬式にも行けるだろう嫌味な程に真黒いスーツさえ、この男が纏っているとより一層濃く染まり、周囲の薄闇から浮き出すようだった。
「どうした?まるで幽霊でも見たような顔をして」
 揶揄る男の口元には細い紙巻が咥えられている。鼻先を掠める匂いと、そこから棚引く白い細煙を一瞬荼毘のように感じた己に、ブラックジャックは心底忌々しげに舌を打った。
 拍子に頬が引き攣り、薄いガーゼの張られた右のこめかみが引き攣るような痛みを訴えるのを、不機嫌さの下に押し隠す。
「……院内は禁煙だぞ。医者のくせにその程度の常識もないのか、ドクターキリコ」
「その『医者』の仕事がついさっき一つ片付いてね。まぁ、俺なりのささやかな一人祝いだ。そのぐらい見逃せよブラックジャック先生」
 半分程になった煙草を慣れた動作で指に挟み、皮肉気に笑った男の台詞に、ブラックジャックはぐ、と唇を噛み締めた。
 まさか、この男も今日ここで『仕事』が入っていたというのか。そんな、馬鹿みたいなタイミングの話があって堪るか。
 だが、それを有り得ないと言い切れない程には、自分とこの男は出くわしていた。それも世界のあちこちで。まるで酷く性質の悪い悪戯か、安っぽい三文戯曲のように。
 そして今も、現にこの男はここにいる。自分の目の前に。死神と呼ばれるその異名に相応しい色を、匂いを纏いながら。
 この男は、仕事が片付いたと言った。ならば今の自分も、この男と同じ色と匂いを纏っているのだろうかと考えて、ブラックジャックは灰銀色の隻眼から視線を逸らした。
「それなら、こんな場所でなく店か家で一人酒でも飲めばいいだろう」
 どけ、と切り捨てるように言い放ち、その脇をすり抜けようとする。とにかく今日は疲れていて、早く帰って何も考えず眠りたかった。この男とここで出会ったのが偶然かそうでないかも、どうでも良かった。
 だが、そう広くもない廊下ですれ違いかけた瞬間、男はふいにブラックジャックの右腕を鷲掴んだ。
「ッ……!?」 
 自分より一回り体格の違う元軍医の五指が、獲物を捕らえた鷲のように容赦なく腕に食い込むのに、ブラックジャックは弾かれたように眦を吊り上げ男を見上げた。すれば、男は薄闇でもはっきりそうと分かるほど嗜虐的な笑みを口の端に浮かべていて。
「珍しいじゃない、先生。アンタが俺を見て、人殺し人殺しと子犬みたいにキャンキャン吠えかかってこないなんて。ああそれとも」
 今日はアンタも『こっち側』かな?と。
 全てを見透かすような男の科白に、掴まれたままの身体がビクリと小さく跳ねる。人殺し、という男の声が、耳の中であの少女のそれと混じり合う。
 沈黙は、ほんの数秒。だが男は、その数秒で全てを正しく理解したようだった。
 切れ長の双眸が、ブラックジャックの懊悩を哂うように眇められる。
「おっと、同類扱いは失礼だな。アンタは患者の命を救おうとベストを尽くした。その結果が今回たまたま俺と同じだっただけのことだ。何、気に病むことはないさ。お前は天才だが、神じゃない」
 ああでも、と男が哂う。薄い唇が、死神の鎌のように歪められて。
「こんなときだけ俺を糾弾もせず逃げるなんて随分卑怯じゃないかい?え?ブラックジャック先生」
「あ……」
 頭を、後ろから鈍器で勢いよく殴られたような気が、した。
 男の言わんとすることを脳が理解した瞬間、床についている足元から身体中の血が流れ出していく感覚がして、小刻みに四肢が震え出す。
 駄目だ、腕を掴まれている男に気付かれると頭の中の冷静な一部分が思うのにも、失血時のような小刻みな震えが止まらない。
 ああそうだ。自分は今、逃げようとした。いつものように男の目を見て、胸倉を掴み上げ、人殺しと罵ることが出来なかった。
 何故かと自問して、しかし理由はすぐに見つかった。その言葉は、今の自分も等しく貫く諸刃の剣だからだ。
 だから、男から視線を逸らし、逃げようとした。ああ全く、とんだ最低の卑怯者だ。
「ねぇ先生。今の俺にはアンタを糾弾する資格があると思うんだが、どうかね?」
 男の言葉が、どこか遠い。そういえば、こいつは自分がどれだけ非難しても罵倒しても、逃げることも怒ることも手を上げることもなかったのだと今更ながらに気が付いた。
 ああ確かに、この男からしてみれば自分はキャンキャン煩い子犬のようなものなのだろう。ほんの少し脅すだけで途端尻尾を垂らし震えて逃げると分かっているから、いつも言われるがままなのかもしれない。
 それはさぞ、疎ましかっただろうなと思う。思ったから、頷いた。いつの間にか、身体の震えは止まっていた。
 見上げた男は、死神なんて呼ばれているくせ、髪も瞳もまるで宗教絵画に出てくるような輝く白銀で、あまりの皮肉さに自然と笑いが込み上げてきた。
 ああ、色相で言うなら、こんな醜い黒白と、抜きたての血を思わせる柘榴色の瞳を持った男の方が、よっぽど。
「……そう、だな。蹴るなり殴るなり好きにすればいい。ただし、両手と頭、それから目だけは勘弁してくれ。メスを握れなくなったら困る」
「なんだ、まだ医者続けるつもりか?また誰かを殺すかもしれないのに?」
「そうだ」
 その瞬間だけ、ほんの僅かに意思が篭もった。そうだ、それだけは譲れない。何度人殺しと罵られようが、この痛みを受けようが。いつか死んでも、いつか死ぬまで、自分は医者であり続ける。
 信念と諦念が綯い交ぜになったような色を湛えた双眸で、真っ直ぐ男をねめつければ、男の瞳が愉快そうに眇められた。
「相変わらず馬鹿だなお前は。では、遠慮なく」
 煙草を挟んだままだった男の右手がふいに自分の顔へと伸ばされる。頬を殴られるか、火を肌へ押し付けられるかと肩を強張らせ身構えて。
「イッ!?」
 だが次の瞬間、左のこめかみに貼っていたガーゼを突然ベリッと剥がされたかと思うと、間髪入れずその後頭部をぐいっと引き寄せられて、ようやく血の止まった傷口に温かい何かが触れた。
 医療用テープと傷口に癒着したガーゼを無理矢理剥がされ、ズキズキと痛むこめかみに押し当てられたそれが何なのか、一瞬本気で理解できなくて。ただ、自分より頭一つ大きな男の胸元に、引き寄せられていて。男の纏う煙草と香水の匂いに抱き締められるように包まれて。
 だが、消毒された傷の部分をぬるりと何かが這った瞬間、ブラックジャックは電気ショックを浴びた患者のように全身を跳ねさせ、我に返った。
「っやめろ!!」
 刹那、考えるより早く男を突き飛ばし、廊下中に響き渡るほどの怒声を張り上げる。あれだけ強く掴まれていた指があっさり離れたことに気付く余裕もなく、ブラックジャックは濡れたこめかみを左手で押さえ、壁際まで後ずさった。
 頭の中がぐちゃぐちゃで、まともな思考が繋がらない。何をされた?自分は今、この男に一体、何を。
 ブラックジャックに突き飛ばされたまま、数歩離れた場所で男がくつくつと喉を鳴らして笑う。だがそれは先刻までの嗜虐的な笑みではなく、まるで悪戯が成功した子供のようで。
「それ、ここの誰かにやって貰ったのか?随分下手くそな応急処置だな。止血用のガーゼは血が止まったらさっさと取り替えるか、清潔な環境ならいっそ剥がした方がいい。そのまま朝まで放っとくと化膿するぞ?痛いならちゃんと痛いと言わないから、そんなおざなりな手当てをされるんだ」
 男が、伸びた灰を無造作に床へと落とし、短くなった煙草を咥えた。たった今、自分に口付けたその唇で。
 そう思った瞬間、心臓が突如破裂せんばかりに脈打ち始め、顔がかあっと熱くなった。急に血が巡ったせいか、治まりかけていたこめかみの傷がまたズキズキと痛みだす。自分達の間に、剥がれたガーゼが落ちている。
 だから、この男は今、一体何を。何を、言って。
「折角の綺麗な顔に、そんなつまらん傷など残すなよ、ブラックジャック」
 にやりと口の端を吊り上げた男が、それっきりまるで何事もなかったかのように踵を返して立ち去っていく。
 カツカツカツと、リノリウムの床を上等な革靴が打つ音が廊下に響いて、遠ざかる。なのに男が残した言葉だけが、いつまでも鼓膜の中で反響し、頭蓋の中をぐちゃぐちゃにかき回し。
 やがて、男の足音が完全に消えた頃、ブラックジャックは混乱する思考の中、ぽつりと呟いた。
「……こんな、色違いのツギハギ顔の、何か綺麗だ」
 声にした途端、何故だか左胸がズキリと軋みを上げた。
 そうだ、こんな顔を捕まえて何が綺麗だ、嫌味にも程がある。ましてやそんな顔に口付けるなどどうかしている。
 この傷を恥じてなど全くいないが、自分の顔が醜いことは知っている。あんな風に、まるで慰めるみたいに癒すみたいに、優しく触れられるようなモノでないことは知っている。
 だから、嫌がらせだ。あんなものは、酷く悪趣味で低俗な嫌がらせだ。あんな男にほんの一瞬でも罪悪感を覚えたり、殴られてもいいなんて思った自分が馬鹿だった。
 傷が、熱を持ったのだろうか。あんな男に舐められたから、雑菌でも入ったのかもしれない。
 顔が熱い。頬が熱い。心臓がドクドクうるさくて、身体が火照ったように熱くて堪らない。
 ああちくしょう、さっきまで何も感じなかったのに。
「……痛い」
 ちくしょう、お前のせいだ、と。
 壁にもたれてズルズルその場へ座り込み、ブラックジャックは視線の先に転がるガーゼを茫洋と見つめ、呻くように吐き捨てた。

 口付けられたこめかみから掌を離せないのが何故なのか、自分にも分からなかった。
 




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キリコなりに必死に慰めようと頑張った結果(余計嫌われる)
こんな感じの二人が好きです。意地っ張り意地っ張り。
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