MEMOMEMO短文散文とかうっかり萌えた別ジャンルとか管理人の電波とかをひっそりこっそり。 [PR]× [PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。 ノブサブSS何てことないノブサブ小話パート2。
本誌ネタバレ含むような含まないような。 「差し入れ」 戻ってくるなり寄越されたのは、謝罪でも弁解でもなく、酷く短いその単語と、開きかけた口に問答無用で押し込まれたドーナツだった。 むぐ、と呻いた異三郎の脇を、長い黒髪をふわりと棚引かせた部下がすり抜けていく。 とりあえず、押し込まれたドーナツを手に持ち直した。新発売の米粉ドーナツ、よもぎ味だ。数日前、警備中にふと新作を検索し、食べてみたいと言ったのを覚えていたらしい。 国産よもぎのグレーズをコーティングされたそれは、口中に広がる新緑の風味と、草餅のようなもっちり感が相俟って、とても美味だった。流石、エリート御用達の店にハズレはない。 さてどうしたものかと、異三郎は新作ドーナツ一口の咀嚼分黙考して。しかし結局、まぁいいか、と言うべき苦言をドーナツと共に飲み込んだ。 見回り組唯一の女性隊士であり、自分の右腕とも言えるあの部下がこうして『差し入れ』を買ってくるのは、何か要望のあるときか、あるいは何かしら後ろめたいことがあるときだ。 と言うことは、一応彼女なりに先刻の一件について悪かったと認識してくれているのだろう。 それが、激しく好意的かつ希望的観測に基づく解釈だとは分かっていたが、異三郎はそれ以上の思考を放棄した。というか、言ったところでどうせあの部下は聞いてくれない。 ドーナツをもう一口かじり、視線を向けた先では、件の部下が城の中庭に誂えられた一抱えはある庭石に腰掛け、月を見上げながら自分用のドーナツを頬張っていた。 後ろから見える頬が、リスのように少し膨らんでもごもごと動いている。どうやら珍しくかなり機嫌がいいらしい。 ふむ、と、異三郎は顎に手を当て思案した。 正直、彼女があんな真似をしたのには純粋に驚いている。彼女の思考と行動は、いついかなるときも精密機械のように合理的かつ正確で、そこには一片の埃も混じる隙はなかったはずだ。 それもあの男の影響だろうかと思うと、上司として、あくまで上司として非常に面白くない。 しかし同時に、愚かしくも物語としては美しい遊里の恋物語に心動かされるような、普通の町娘のような感性を彼女も持ち合わせていたのだろうかと、少しだけ知的好奇心が湧き起こった。 だからそれは、異三郎にとってほんの些細な出来心だったのだと思う。 じゃり、と最上級の玉石を踏み鳴らし、月を見上げる部下に近付き、隣に並ぶ。 そうして、自分も同じように月を眺めながら、さりげなく、至ってさりげなさを装って、異三郎は呟いた。 「―――…今夜は、月が綺麗ですね」 それは単に、部下の心情と文学的知識を把握するための問い、のつもりだった。 しかし、その瞬間何故だか急にじわりと汗が滲み、鼓動が早まるのを感じた。 隣で、ゴクンとドーナツを飲み込む音が聞こえるのにも、どういうわけか頭上の月を見上げたまま、視線を部下の方に動かせなくて。 「満月の夜は、明るすぎて仕事に向かない。特に、私みたいに夜目の利きすぎる人間は明かりの入らない屋内に移動したら、目が慣れるまで数秒かかってすごく不利…………どうしたの異三郎」 「いえ、何だか急に江戸城の鯉と交流を深めたくなりまして。やはり種族は違えどエリート同士、惹かれ合うものがあるんでしょうかね」 庭石の数歩先に作られた池のほとりにしゃがみ込み、月の浮かんだ水面を覗き込む。 夜だと言うのに、人の気配を察して餌を貰えると思ったらしい色とりどりの錦鯉が寄ってきて、異三郎に向かいパクパクと口を開けた。 「……駄目です、これは私のです」 鯉に向かって大人気なく宣言し、これ見よがしにドーナツを頬張れば、まるでその言葉が通じたかのように鯉の尾ひれがバチャンと水面を打ちつけ、そこに映っていた月を異三郎の顔面に叩き付けた。 ずぶ濡れになっただろう上司の、何やら少し落ち込んでいるらしい丸い背中を無表情に眺めつつ、信女はポツリと呟いた。 「……綺麗じゃないとは言ってないのに」 馬鹿な人、と小さく零れた囁きを、空に浮かんだ月だけが聞いていた。 ----------------------------------------------- サブ土は佐々木、ノブサブは異三郎。 基本的に同一人物。 PR COMMENTSCOMMENT FORM |
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