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MEMOMEMO

短文散文とかうっかり萌えた別ジャンルとか管理人の電波とかをひっそりこっそり。

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2025/04/30 (Wed) -

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2010/08/30 (Mon) - 未選択



戦国/BASARAで小政。だと言い張ってみたいただのSS。



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「政宗さま!」
ドスドスドスと上質な桧の廊下を早足で進み、バアンと木枠が外れるかと思うほどの勢いで障子を開く。すればそこあったのは予想通り、我が唯一最愛の若き主で。
「shit!なんだ、もう戻ってきちまったのかよ。今日は収穫日だから遅くなるっつったくせに」
当てが外れたと言わんばかりの、ふてくされた悪童のようなその表情と台詞とに、片倉小十郎は開いた襖に手をかけたまま、深々と嘆息した。
「……一応、お聞き致しますが。一体何をされているので?」
平らな眼差しでそう問うた小十郎の視線の先に広がっているのは、最上質の井草で作った畳の上に所狭しと並べられた色とりどりの反物と、そしてたった今、その中の一つを城主に勧めていたのだろう、商人らしき男の姿。
主の部屋に突然押し入ってきた人相の悪い大男を見上げたまま、声もなく硬直しているその男に見覚えはないが、畳の上に広げられたら色鮮やかな反物に勝るとも劣らぬ豪奢な着物と恰幅の良さから、大店の商人なのだろうと推測するのは容易だった。
目付役である小十郎のおらぬ間に、そんな輩を城へと連れ込み煌びやかな柄の反物を吟味しているとなれば、それが一方ならぬ相手への贈り物だということぐらい、いかな朴念仁と徒名される小十郎でも容易に想像がつく。
つきはするが、認めたくない。
それは、家臣の分際でありながら、想いを交わし、身体を重ねた主が、他人に寵を与えることへの嫉妬、などという単純なものではない。寧ろ、そうであってくれた方がまだ幾らか救いがあった。
その程度の相手になら、決して負けぬ自信がある。この反物を取り上げて、小十郎とその娘、どちらが大事でございますかと、少し拗ねたように問うてしまえば、日頃寡黙な家臣の嫉妬じみたその言葉に、主は喜んで反物を手放してくれるだろう。
だが。
「まぁ、見つかっちまったもんはしょうがねぇ。それに、中々決まらなくて悩んでたとこだったしな。ちょうど良い、知恵貸せ小十郎。これとこれ、どっちがいいと思う」
どちらも一目で最高級の織物と分かる刺繍の布を両手に携え向けられた、屈託のないその笑顔に、小十郎はぐ、と奥歯を噛み締め、左手をきつく握り込んだ。そんな、ただただ愛しくて堪らないという貌をされてしまっては、この醜い胸の内など吐露できるはずがない。
笑うということを忘れきった子供だった主が、ようやく取り戻したその笑顔に、どうやったとて自分は勝てやしないのだ。だからいつも、甘やかしてしまう。
主もまた、そんな守り役の性格を十二分に理解しているのだろう。必ず答えると信じて疑わない期待に満ちた黒曜の双眸に見上げられ、小十郎は数瞬の葛藤の後、諦めたように深々と溜め息をついて、主の問いに答えることにした。

「……お美しい方ですから、どちらでもお似合いになられるとは思いますが。あえて申し上げるなら……そうですね。これからの季節、山も色付いて参ります。萌黄色を基調にしたそちらの生地なら、紅葉狩りなどの際にもさぞ映えましょう」
無骨者ながら精一杯頭を働かせて紡いだその科白は、洒落者とした名高い主にしても、十分及第点に足るものだったらしく、彼は途端ぱっと顔を綻ばせて。

「ナイスアイディアじゃねぇか小十郎!母上は紅葉の時期になると、よく庭に能楽師を招いて宴を開くらしいからな!」

 それでいこう、と手を打って喜ぶ主の姿に、ツキリとした痛みを覚え、小十郎はそっと視線を伏せさせた。


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「いやぁ、助かったぜ。あの二巻きが最後まで決めきれなくてなぁ。だがお前のお陰で、いい着物ができそうだ」
 反物を決め、着物を作る算段を終えて商人を帰した後、小十郎を部屋に招いた政宗は、そう言いながら上機嫌に扇子をはためかせた。だが、それに相対する家臣の表情は、苦虫を噛み潰したようにしかめられていて。
「……それはよう御座いました。ですが、あのような氏素性の知れぬ者を、小十郎に黙って安易に招き入れるのはおやめ下さいませ。どこの息がかかっているとも知れませぬのに、護衛もつけずそのような袴姿で……」
「あーあーオーライ。てめーの言いたいことは分かってるって。安心しろよ、ありゃあ成実がよく使ってる出入りの商人だ。身元は確かだし、何より扱ってるモノがいい」
城お抱えの商人じゃ、結局母上の持ってるものとさして変わらなくなりそうだったから、どうしてもそちらが良かったのだと言われてしまえば、小十郎にそれ以上小言を続ける資格はない。成実が懇意にしているというなら、そういう意味での危険はないのだろうし、贈る衣も、高価だが一国の主にとっては小遣い程度。まして、政宗は普段至って質素な生活を営んでいるのだから、小十郎とて、たまの浪費を諫めるような無粋はしたくはなかった。
事実、もしこれが自分自身のためや、あるいは―――…業腹ではあるが、好いた娘に贈るためなら、商人が辞した時点で、この話題は打ち切っていただろう。
だが、
「……恐れながら、政宗様がどれだけ御心を込められた品なれど、お東の方は受け取られますまい。先日の、簪の件をお忘れですか?」
膝の上で握りしめた拳に視線を落としたまま、不敬を承知で小十郎は具申した。
先日、と言っても、もう半年近く前のことだが、政宗は母である義姫に簪を贈った。南蛮の意匠を僅かに織り込んだそれは、装飾品になど何の興味も見識もない小十郎をして、目を見張らせる程見事なもので。
だが、国中探しても、これを贈られて喜ばない女はいないだろうと思うほどのその簪は、無残に折られ、装飾を散らされた有り様で突き返されたのだ。
必ず政宗に渡すようにと固く念押しされたのだと、震えながら女官が差し出した簪を目の当たりにした瞬間の、胃の腑が灼けるほどの怒りは、未だ身の内に鮮明に残っている。
だからこそ、家臣に―――…特に小十郎に対しては寛容すぎるほど寛容な主とはいえ、もしかしたら今度こそ怒鳴りつけ、打ち据えられるかもしれないと思ったが、言わずにはおれなかった。しかし、その言葉にも政宗は、鷹揚に扇子を扇いだままで。
「ああ、あれは失敗だったな。固い簪の破片で、母上が怪我をされるところだった」
けれど、着物なら破いても手を傷付けることはないから安心だろう?と。
折られた簪を目の当たりにした瞬間、悲しむでも怒るでもなく、ただその手に傷がつかなかったことを確認して笑ったときと同じその笑みに、小十郎の左胸がギシリと軋んだ。

政宗が、母である義姫に贈り物をするようになったのは、確か二年ほど前からだったと記憶している。珍しい舶来の菓子から始まって、京で評判だという化粧紅に、平安時代の絵巻物。女たちの間で流行っていると聞けば、政宗はそれらを買い求め、数か月に一度の割合で、義姫へと贈っていた。
といっても、その都度決まって突き返されているので、それらが義姫の元に置かれることは一度もなく。そして半年前、何度突き返しても懲りずに贈ってくる政宗の行為にとうとう堪りかねたかのように、折られた簪が突き返されたのだ。
以来しばらく、政宗の『習慣』は成りを潜めていたから、流石にやめたのかと思っていたが、どうやら単にほとぼりが醒めるのを待っていただけらしい。
萌黄色の美しい衣が、無残に裂かれ主の目の前に晒されるところを想像して、ぐ、と唇を噛み締めた家臣の様子に気付いたのか、政宗はくすりと口の端を吊り上げた。
「いいんだよ、俺がやりたくて勝手にやってることだ。母上にしてみりゃ、迷惑以外の何者でもねぇだろうし、受け取って貰えねぇからって、どうと思うわけでもねぇ」
「ですが……!」
「いいんだって。お前が思ってるような深刻な話じゃねぇんだ、これは。だからほら、この話はもう終いにしようぜ。それより、慣れねぇ反物ずっと見てたら目が疲れた。なんか甘いもんが食いてぇな、小十郎」
「……先程採ってきた西瓜なら、井戸で冷やしておりますが」
「Good、いいねぇ!お前の作った西瓜は、どこのヤツより一番甘くて美味ぇんだ。早速切ってきてくれよ。お前も畑仕事で疲れただろ?一緒に食おうぜ」
「は……」
自慢の畑を誉められて、嬉しくないはずがない。だが、今ばかりは素直に腰を上げることも出来ず、小十郎は言葉を濁すように目を伏せた。
分かっている。これが自分の口を出す問題ではないことぐらい。
母の愛というのは、特別なものだ。他の誰がどれだけ愛情を注ごうとも、決して代わりにはならない。それは小十郎も十二分に理解している。自分が成り変われるなどとおこがましいこと、考えてもいないし、そうなりたいとも思わない。自分は傅役として、忠誠を誓った家臣として、そして一人の男として政宗を愛している。そのことにこそ、代え難い矜持を持っている。
 だが、それでも、どうしようもなく思い知らされるのだ。自分が持てるだけの愛情を全て注いでも尚、決して敵わぬものがあるのだと。
「おい、小十郎?」
 義姫と政宗が、所謂普通の母子なら、小十郎とてそんな思いは抱かなかっただろう。
 だが、小十郎は知っている。疱瘡を患い、右目を失った我が子を、義姫がどんな風に扱ったかを。実の母に化け物を罵倒され、幼い政宗がどれだけ傷ついてきたかを、誰より近くで、嫌というほど見せ付けられている。
 だからこそ、腹が立つのだ。
 高価と持て囃され大事にされていた茶器が、ほんの僅か欠けたというだけでガラクタとして捨てられるように、片目をなくしたというだけで、実の子を厭い挙句殺そうとまでした女が、それほどまでに大切なのかと。
 自分は義姫の代わりにはなれないが、政宗が望むならこの髪一本すら残さず捧げられるというのに、それでも『母』であるというだけで、永遠にあの女に勝てないのかと。
「小十郎?どうしたんだよ、おい」
 これからもずっと、手ずから選んだ品を母親に拒否される主の姿を、ただ傍に控えて見ていることしか出来ないのかと。自分はそんな、無力な存在でしかないのかと。
「小十郎ってばよ。なぁ、早く西瓜切って」
「嫌です」
 そう思った瞬間、考えるより早く、小十郎は心の声を言の葉へと乗せていた。
「嫌です、もう。貴方様が斯様に心を砕いて贈られた品々が、ああして無碍につき返される様をこれ以上目の当たりにするのは、やはり小十郎には到底耐えられませぬ。どうかこのようなことは、もうおやめ下さいませ」 
「…小、十郎?」
「っ確かに、義姫様は政宗様のご生母様なれば、恋い慕うは人として当然の情に御座いましょう。ですが、今は戦国の世。親兄弟の情が、必ずしも全てを凌駕するとは限りませぬ。義姫様が政宗様を遠ざけられたのも、伊達家の為に弟君を擁立せん、と……」
 抑えていた何かが吹き出したかのように、一息でそこまで紡いだ瞬間、小十郎はハッと我を取り戻し顔を上げた。すればそこにあったのは、呆気に取られたような表情で此方を見やる主の姿で。
「あ―――…」
 一つしかない、その黒い瞳が己の視線とかみ合った瞬間、小十郎は今自分が告げた言葉の意味に思い至り、ざっと顔から血の気を引かせ弾かれたように平伏した。
「もっ、申し訳御座いませぬ!!この小十郎、何と言うご無礼をっ!!」
 家臣の分際で……否、誰であろうと、決して言ってはならぬことのはずだった。伊達家の闇にして、政宗の最も深い傷だろう部分を、自らの醜い妬心で抉ったのだということに、津波のような後悔が押し寄せる。出来ることなら、数秒前の己の言葉を、腹掻っ捌いてでも止めてやりたい。
 だが、一度口にしてしまった言の葉を、なかったことにする術などあろうはずもなく、小十郎はただひたすら、畳に額を押し付けながら、詫びることしか出来なかった。
 と、
「―――…小十郎」
 ふいに、己の名を呼ぶ主の声と重なって、僅かな衣擦れの音がする。政宗が立ち上がったのだろう。
「小十郎、もういい。面ぁ上げろ」
「……はっ」
 鍔鳴りの音は聞こえなかったから、手打ちにされるわけではなかろうが、殴られるか蹴られるか、あるいはその両方か。
 どちらにせよ、自分は今、殺されて当然の言葉を主に投げつけたのだ。何をされても最後まで耐え切ろうと、奥歯をきつくかみ締めゆっくりと頭を上げて目を開く。すれば、目の前で己を見下ろす隻眼の主が、ゆっくりと手を伸ばして。

 そうしてそのまま、幼子がするかのように、勢いよく抱きつかれた。

「っ!?…ま、政宗、さまっ!?」
 予想だにしなかったその行為に、流石に堪えきれず畳の上へ尻餅をつく。だが、当の政宗はといえば、目を白黒させた家臣の様子を心底面白がるように、その太い首へ両腕を回したまま、くつくつくつと喉を鳴らして。
「なぁ」
「…っ、は」
「お前ってさぁ、ほんっと俺のこと超ラブなのな」
「っは…………は?」
 その耳元で、鈴が鳴るように囀られた、余りに場違いなその科白に、小十郎の思考が一瞬停止した。
 らぶ……というのは、確か。
「すげぇ好きで、愛してるって意味だ。なぁ小十郎、お前は俺のこと好きか?」
「はっ…む、無論、で、御座います。この小十郎、貴方様以上に大切なものなどありませぬ。一介の家臣の分際なれど、政宗様の御為に一生を捧げるつもりなればっ…!」
「ああ、分かった分かった。いちいち暑っ苦しいなてめぇは。もうちっとクールに行こうぜ」
 突然のことに混乱し、手のやり場に困りながらも即答すれば、その勢いに年下の主は幾らか呆れたように苦笑しながらも、首に回した腕に力を込めて、より一層その身体を密着させた。
 衣越しに伝わる小十郎の体温が心地よかったのか、そのまま政宗は猫のように小十郎の肩口へと擦り寄り、暫しの間沈黙して。
「お前の、せいだぞ?」
「……は?」
「だから、俺が母上に贈り物なんてするようになったのは、お前のせいだと言ってんだ」
 なのに、その元凶が今更何を偉そうにと、悪童染みた笑みで見上げながら告げられたその科白に、小十郎は今度こそ大きく瞳を見開いた。
 そんな家臣の常にない狼狽した様子を面白がるように、政宗は尚も続けた。お前のせいだ、と。
「お前が、そうやって馬鹿みてぇに愛情なんてもんを寄越すから。溢れても溢れても、お構いなしに寄越すから。だからもう、なんか腹一杯になっちまってよ。母上に愛されなくても構わねぇって、思うようになっちまった。そんで、お前に貰った分だけ、愛されなくても愛してぇって思うようになっちまった」
 お前のせいだ、とまた笑う。嬉しそうに、幸せそうに。
「ずっと、母上に愛されたかった。いつだって見返りを求めてた。だから、愛されねぇのが悲しくて苦しくて、俺はずっと母上から逃げていた」
 けれど。
「けどな、今はもう、いらねぇ。暑っ苦しいお前の分だけで手一杯で、母上のはもういらねぇんだ。お前に初めて抱かれた夜、唐突にそう気が付いた。したらなんか急に、ずっと抱えてたもんがすげぇ軽くなった」
「……ま、さむね、さま……?」
「俺は、母上の愛してた『梵天丸』を殺して、弟と親父も殺した。母上が大事にしてたもん全部、俺が奪った。だから俺は、母上に愛される資格はねぇし、愛されたいとも思わねぇ。でもな小十郎、それでも俺は、母上を愛している。昔、お前が俺にそうしてくれたように、どれだけ厭われようとこの先ずっと、俺は母上を愛し続ける」
 たとえ一生、心の底から疎まれ続けるだけだとしても。決して、同じ感情が返ってこなくても、それでも。
「本当は、とても情の深い方なんだ。だからきっと、家の為に必死に考えて、苦しんで、誰にも縋れず頼れず、追い詰められて……ある日とうとう、それがプツンと切れちまったんだと思う。お前の言葉を借りるなら、まさに戦国の世なればってヤツだ。単なる百姓の母子として生まれていれば、片目が潰れようと手足の一本二本なかろうと、きっと母上は変わらず俺を愛してくれただろう。そう考えると、母上が不憫でならねぇ」
 遠い昔に、抱いてくれた優しい腕の温もりを覚えているから。だからこそ、一度は愛した我が子を手にかけようとして、苦しまなかったはずがない。
 そんな風に、思えるようになっていた。この温かい腕に抱かれている内に、いつの間にか。
「だから、俺だけは母上の味方でいようと思う。城中、国中の人間が皆、母上のことを悪しく言っても、俺だけはずっと、母上を愛していようと思う。そんで、そんな馬鹿な息子がこの世に一人ぐれぇはいるんだって、知っていてくれりゃあいいと思う。俺にお前がいたように、あの人にもいつか愛してくれる相手が現れて、幸せになってくれればいいと思う」
 そして、それでも。
「それでももし、どうしても駄目だったら、お一人で苦しくて寂しくて、どうしようもなくなったら、そんときにゃ、馬鹿な息子が一人いたことでも思い出して、頼ってくれりゃあいいと思う。だって俺ぁ、誰かさんのせいで愛情はいつでも満タンゲージだからな。ちょいとばかり人に無料でくれてやるくれぇ、どうっつうこともねぇ」
 ほら、お前のせいだろうと笑う主の顔が、ふいに歪む。鼻の奥が、ツンと痛い。これは一体なんだろうと思うと同時に、温かいものが頬を伝って。
「ハッ、何泣いてんだよ小十郎」
 でかい図体でしょうがねぇなぁと笑う主に、指の腹で頬を拭われ、そこでようやく小十郎は自分が泣いていることに気がついた。
「…も、しわけ……」
 だが、みっともないと思うのにも、眼窩の奥から溢れるそれは、留まることを知らなくて。
 どうしたんだと笑う主の問いにも答えられないまま、泣き顔を隠すように小十郎は自分より一回り細い身体を抱き締めた。
 この感情を、何と言うのだろう。胸の奥から込み上げる、この熱い塊は。
「なんだ、本当にでかい子供みてぇだな。オーケイいいぜ小十郎、今日は俺が思う存分甘やかしてやる」
 たまには俺も愛情還元しねぇとな、と、綺麗に撫で付けた小十郎の髪をくしゃくしゃに撫でながら主が笑う。そこにはもう、遠い昔、母親に厭われる夢を見たと泣きながら小十郎にしがみついてきた幼子の姿はありはしなかった。
 己はなんと狭量だったのだろう。勝つだ負けるだ、そんなことに拘って、この方の本質を見誤って。
 本当は、本当はもう、こんなにも。
「……政宗様」
「ん?」
「愛して、おります」
「おう、俺も愛してるぜ小十郎。この世で一番、お前が好きだ。お前といると、あったかくて幸せで堪んねぇ」
 だから、母上もいつかこんな風に幸せになってくれればいい、と笑う主を、小十郎は力の限り抱き締めた。
 千々に乱れた感情は、まだぐちゃぐちゃに絡まりあったまま、意味のある言葉にならなくて。無礼極まりないと分かっていても、主の衣を濡らすにわか雨は、まだ暫く止みそうになくて。
 この想いを、何と言うのか自分は知らない。

 ただ、萌黄色の着物が突き返されてきたら、次は主と一緒に、また新しい贈り物を考えようと、思った。





------------------

小政書くなら母親ネタは外せまいと考えて、何かないかとウィキってみたら、晩年は和解したっぽいよという記事を見つけて、これだあああ!と食いついてみました。
色々と付け焼刃すぎてすみません。時代考証とか口調とか諸々の間違いは、魔法の呪文を唱えて目を瞑って頂ければ幸いです。
だってほら、バサラだから☆





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COMMENTS

無題

はじめましてm(_ _)m
銀魂の銀土もバサラの小政も愛してやまないので大好きな作品を書く先生が小政書いてくれたのが嬉しくて嬉しくてついメッセージおくっちゃいました(笑)

どの作品も私のツボど真ん中です!!まだまだ暑い日が続きますが執筆&お仕事頑張って下さい!出張後などは無理せず休んで下さいね
by きき | 2010.08.30 (Mon) 23:31 | EDIT | RES
ききさま
初めまして、当サイト管理人の魚類と申します。
突発小政SSに感想有難うございますv
ツボと仰って頂けて嬉しかったです。これからもまた頑張りますので、遊びに来て下さいね。
でも先生だけはやめて下さい本当に……滅相もありませんorz
From 魚類。 | 2010.09.08 Wed 23:47

(T_T)

感動しちゃいました(T_T)
毎回私のツボをついてくる主さん大好きです!←
これからもお体に気をつけて頑張ってください!!
by まめ | 2010.09.03 (Fri) 00:49 | EDIT | RES
まめさま
小政SSの感想有難うございます。
また微妙なところに食いついてすみませんと思いつつ書いていただけに、思いがけず有難いお言葉を頂けて大変幸せですv
世間様と若干ツボのズレたアレなイキモノですが、これからも宜しくお願いします。
From 魚類。 | 2010.09.08 Wed 23:49

ツボ

バサラは知らないけれど幼少時独○竜にフォーリンラブした者なので楽しめました。現代語?もおしゃれな感じで。
もちろんこちらの銀土も大好きです。
お東様は確か後年ご実家最上が苦しくなって息子を頼られたハズ。それ以前にも朝鮮の役で和解ぽい交流をしたと思います。
by あや | 2010.09.03 (Fri) 14:10 | EDIT | RES
あやさま
まさかの純史実ファンの方からのご感想、有難うございます。
時代考証とか口調とか、なんか色々大変申し訳ありませんと土下座したい気持ちで一杯ですが、本家バサーラはもっと色々すさまじいのでどうか寛容なお心で読み流して頂ければ幸いです。
何分、今の今まで戦国時代は全くの管轄外だったので、今更ながらにウィキで歴史勉強始めてる付け焼刃な書き手ですが、楽しんで頂けてほっと致しました。
もっと色々勉強頑張ります…!(学生時代のツケがこんなところで)
From 魚類。 | 2010.09.08 Wed 23:52

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