MEMOMEMO短文散文とかうっかり萌えた別ジャンルとか管理人の電波とかをひっそりこっそり。 [PR]× [PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。 愛してるだとか好きだとか後日談10/23スパーク発行無配SS再録。
オフ発行本「愛してるだとか好きだとか」ネタバレ含みます。 空は雲ひとつない見事な蒼天。身が引き締まるようにキンと冷えた、だが息が白くなるほどではない心地よい空気。どこからともなくふわりと香る金木犀に、ほんのりと色づき始めた街路樹の葉。 まさに絵に描いたような秋の日本晴れ。これといって事件もなく、街は至って平穏そのもの。 だというのに、煙草の紫煙を棚引かせ歌舞伎町を一人歩く土方の心には、あの日以来晴れることない曇天が立ち込めていた。 --------------------------------- 巡察は真選組の重要な任務だが、副長である土方が街に出る機会は実はそう多くない。週に一度、水曜辺りに情報収集を兼ねて回るのがせいぜいで、以前はそれすらデスクワークの都合によっては出来なかった。 だがここ二ヶ月程は、週に一度の巡察を、デスクワークを夜中にずらしてでも欠かさず実施している。しかしその理由は、決して他の隊士達に胸を張れるようなものではなかった。 巡察のパターンは、攘夷浪士に読まれないよう幾通りもあるが、そのどれを選んでも必ずさしかかる大通り。その中ほどに差し掛かった辺りで、甘い匂いがふわりと鼻腔を擽ったのと同時に、視界の端に映った銀色に、土方はついと視線を向けた。 すればそこにあったのは予想通り、団子屋の赤い御座椅子に腰掛け、大きな番傘の下で団子をほおばる『所有主』の姿で。 この時間に、あの男がそこにいるという事実に、知らず詰めていた息をほ、と吐いて足を止めれば、その視線を感じたのか、煙草の臭いが風に乗って届いたのか、銀時の視線が人ごみをすり抜け土方と交わった。 刹那、ドクリと左胸が跳ね上がるのをどうにか押さえ込み、煙草のフィルターを噛み締めれば、男が身のなくなった串を皿に放り流れるように立ち上がる。 店の主人となにやら言葉を交わし、ひらりと手を振って歩き出した男の着流しの裾が、秋風に乗ってふわりと揺れた。大通りを横切り、近づいてくる男を見つめたまま、土方は半ばまで短くなった煙草を口から離し、地面へと落として靴底で踏み潰す。どうせすぐ、不要になるものだ。 金縛りに遭ったように動けない土方の双眸を見据えたまま、いつもと変わらぬ茫洋とした眼差しの男が近づき、擦れ違い様耳元でひそりと囁いた。 「……こっち」 ついてきて、と。 自分の耳を掠めればすぐさま秋風に浚われ溶けてしまうような、抑えた低い声。 けれど、土方はそのたった一言に逆らえず、既に背を向け歩く男の数歩後ろを、連れだと思われない距離を保ちながら追いかけた。 だって、仕方ない。自分はこの男に買われた人間なのだから。だから、命じられれば逆らえないのだと、そんな口実を免罪符に、守るべき巡察の経路を外れ、銀時に従うまま大通りから抜けた高いビルの隙間へと足を踏み入れる。 そうして、ビルの影によって昼間でも薄暗く、人気のない奥まで辿りついたとき、足を止めた男がついと振り返ったかと思うと、土方の腰を抱き寄せた。 「ぎっ……ンンッ!」 胴を抱きこまれ、煤けた壁にドンと押しつけられ口付けられる。コンクリートにぶつかった鞘が、ガチャンと耳障りな音を立てる。 分かっていたことだが、壁に押し付けるのは出来ればやめて欲しい。巡察のたび、隊服の背中を汚して帰ってくる自分に、勘のいい栗色の部下や地味だが目端の利く監察が気づいていないはずがない。刀の鞘に不自然な傷がつくのも困る。 だが、そう思ってもやはり土方にはそれを伝えることが出来なかった。 何故なら自分は、この男の『所有物』だから。それが、持ち主に文句を言うなんて許さない。だから自分は、何も言ってはならない。 不平も不満も怒りも苦痛も、この胸に渦巻く感情も。 それがあの夜、土方が己に科した咎だった。 蹲る自分に金を投げつけ、お前を売れと言われたとき。ひらひらと舞い落ちる紙切れの向こうに映った男の貌に、言葉に、土方は唐突に自分が一体何をしたのかに気づいてしまった。 気づいて、頭の中がぐちゃぐちゃになった。自分がこの男に取り返しのつかない傷を負わせたのだと、知ってしまった。 なのに、そんな資格などないと分かっているのに、男の手を振り払うことが出来なかった。 幕臣に買われるなど、本当は舌を噛み切りたい程嫌で嫌で堪らなくて、この男以外に触れられたくなくて、銀時に買われることを選んだ。 銀時が自分と同じ感情を持っていたのだと理解しながら、それでも自分のエゴの為だけに、手を伸ばした。 許されないのは分かっている。この男を酷く傷つけた自分が、今更都合のいい幸せな結末を望むなど絶対に許されない。誰が許しても、自分自身が許せない。 そのくせ、完全に自分を断罪しきることも出来ない。この男から自分を買い戻し、幕臣に売り直すことも選べない。歪んだ関係でも、断ち切ることが出来ない、卑怯で矮小で無様な自分。 この男の言う通り、こんな雑種の犬に何の価値もありはしなかった。 事実、約束を違えたにも関わらず、結局あの日以来件の幕臣から呼び出しを受けたことは一度もない。嫌がらせの報復さえ、何もなかった。 つまりはそれが、あの幕臣にとっての自分の価値だったのだろう。歯牙にも掛けない、一時の暇潰し程度の安い玩具。 なのに。 「ん……あ、ふっ……んうっ……」 促されるまま薄く開いた口唇から進入した男の舌が、口内の歯列をなぞり敏感な上顎を擽り、逃げる舌を追いかけ絡め取る。 酸欠で頭の芯がぼうっとする中、胴に回っていた男の手が隊服の上からゆるゆると身体を撫でる。 性的というより、何かを確かめるように、背中に脇に胸元、腹部。下肢の肝心な場所には決して触れないが、その掌が臀部の上を揉むように這ったとき、土方はビクリと四肢を跳ねさせた。 と、それを合図にしたかのように、男がようやく口唇を解放する。だがすぐに、また背中ごと抱き締められ一層強く壁に押し付けられる。今度はぴったりと密着し、右の肩口に顔を埋められ、耳元で囁かれた。 「怪我、はしてねーみてぇだけど、なんかヤツれてね?お前」 「ンッ……!」 目の下隈出来てるし、と『所有主』が指摘するのに、土方は抱き締められた態勢のまま暫し逡巡し。 だが嘘をついても仕方がないと、僅かに嘆息しながらいらえを返した。 「……月末で、書類の期限が重なっただけだ。総悟も相変わらず街でバズーカぶっ放すしな」 「……ふうん。ま、いいけどね。銀さん心広いから、束縛とか嫌いだし、多少のことは目ェ瞑るけど。でもお前は俺のなんだから、あんなゴリラのためにそうそうカラダすり減らしてんじゃねーよ」 そう責める口調とは裏腹に、抱き締める腕はまるで壊れ物を扱うかのように酷く優しくて、そのことがまた土方の胸に新たな雨雲を呼び込んだ。 あの夜、金を投げつけられ、口付けられて、この男の物になって。腕を引かれるまま元来た道を戻り、再び男の住処へと連れ込まれた。 服を脱がされ、まだ涙も止まらないような状態のまま、また抱かれるんだろうかとぼんやり考えた。考えて、好きにすればいいと思った。頭の中がグチャグチャで、絶望と後悔に押し潰されそうで、何も考えられなかった。ただ少しでも銀時に償いたくて、自分はこの男に買われたのだから、こんな身体でよければ好きにすればいいと思った。酷くされたいとすら、思った。 なのに結局、風呂に入れられ身体を清められ着替えさせられ、敷き直した布団の中で抱き締められて、朝まで眠っただけだった。銀時は、何もしなかった。 抱かないのかと聞きたかったが、口を開けばそこから決して零してはならないものがあふれ出てしまいそうで、それが怖くて、どうしようもなく恐ろしくて、『所有物』だということを理由に口を噤んで瞳を閉じた。 以来今日で約二ヶ月。土方は銀時に呼び出されることも抱かれることもなく、ただこうして週に一度巡察に訪れ、持ち主に『状態』を確認される。そんな奇異な状態が続いていた。 命じられたわけではない。だが、あの夜から数日後、初めて歌舞伎町に足を踏み入れた巡察のとき、やはりあの団子屋にいた男に今日と同じことをされて、以来それが習慣化してしまっただけで。 だから土方は、どれだけ無理をしても巡察をやめられなかった。これが自分とこの男を繋ぐ、唯一の糸に思えたから。 自分が巡察に来なければ、この男があの場所に居なければ、この歪な関係すらそこで切れてしまう気がして、それがどうしようもなく恐ろしかった。 けれど、土方がどれだけ従順に従っても、銀時はそれ以上のことをしようとしない。 この男が望むなら、今ここで下肢だけを露にされ、慣らされもせず犯され捨て置かれても、自分は何も言わないし抗わないのに。この男にはその権利があって、自分にはもうそれしか残されていない、のに。 「……だったら、いい加減ちったあ使えやご主人様。てめーが買った途端に放り投げて見向きもしねーから、俺だって多少抱き心地が悪かろうとどうでもいいかと思うんだろうが」 それとも。 「……俺以外に、使うモンでも持ってんのか」 ぽつりと零れたその台詞に、何が可笑しかったのか抱き締めた男がくつりと笑った。 「冗談。言っただろ、銀さん金ねーし、買えるのなんざてめぇ一人で手一杯だって」 だから、と男が呟く。顔を見せているときは決して寄越さない、愛おしむような優しい声で。 「大事に大事に、してーだけ。こうやって抱き締めても、お前の身体が強張らなくなるまで、俺のつけた傷がちゃんと治るまで、もうちょっとだけ大事にしてーだけ」 治ったら思う存分使わせて貰うから、と笑う男のふざけた言葉に、土方はぎ、と歯を噛み締めた。 やめろ、やめろ、そんな言葉を俺に寄越すな。 俺は傷ついてなんかいない。傷ついたというなら、それはお前の方だろう。恋人でも友人でも腐れ縁ですらない、こんな最低の関係にお前を引き摺りこんだのは俺だろう。なのに。 「……なあ、背中」 「あ……?」 「背中に腕、回してくんね?」 「……それは、命令か?」 「うん。……ご主人様の、命令」 ほら早く、と促され、そこで土方は壁に縋っていた腕をようやくゆるゆると持ち上げ、男の背に回す。すれば、ぴたりと触れ合った鼓動が僅かに跳ねるのが伝わってきて、土方の心に掛かった曇天は、いよいよ雨が零れそうになった。 この男が何を望んでいるのか分かっているのに、自分にはそれが出来ない。命じさせて、命じられて、ようやく動ける所有物。この優しい男を、酷く酷く傷つけた。もしかしたらあったかもしれない未来を、この手が壊した。 「土方……」 だから決して、思ってはならない。 「土方……」 そんなことを、思ってはならない。 「……十四郎」 なのに、雫が落ちるのを必死に堪えようとすれば、見えてなどいないはずなのに、男が自分の名をそんな声で呼んで一層強く抱き締めるものだから、それはとうとう抑えきれず、土方の中からぽつりと零れ、男の着物に滲んで消えた。 ああ、どうしよう。どうすればいい。 思ってはならない。 幸せだなんて、思ってはならないのに。何一つ伝えてはならない、のに。 「……銀、時」 ああ、きっともうすぐ、溢れ出す。 PR COMMENTS無題こんにちはさかな様V本編を読んでから『この2人はこの後どうなっていくんだろう』とずっと考えていたのですごくすごく嬉しいですありがとうございます!801号室に笑いました寒い時期になってきましたがお風邪などにお気をつけて下さい☆
お返事遅くなって申し訳ありませんゆきさま、コメント有難うございます!
本編を読んで頂けて、その後の二人のことまで考えて頂けてすごくすごく嬉しいです有難うございますっ。 散々シリアスぶったわりに、こんな感じで結局ラブラブばかっぷるになっていきそうですが、少しでも気に入って頂けましたら幸せです。 801号室はもうほんとちょっとマジそろそろオチのない人生が欲しいなと思いました。 COMMENT FORM TRACKBACKSTRACKBACK URL |
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